勝って負けた

急行電車から降りるとシトシト降っとった。家路を急ぐ夜の雨。仕事で疲れた身体にはちときついけど、ママチャリで帰るのはさらにきついんで久しぶりにバス乗り場へと歩を進ませた。

バスで帰宅といえば前回の屈辱が思い出される。あの時の悔しさ・反省を大いに生かし、今日こそは絶対押さへん。「 このバスにピンポンは無い 」、「 乗ったが最後、誰も降りられへん 」。そんな底なし沼のようなバスに突撃している気分でステップに足をかけた。どうやこの覚悟、この気合い。背水の陣を引いたわし、正真正銘の男前。




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   自画自賛が長くなるので割愛
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バスは一つ前の停留所に停車した。大きく息を吸い、深く吐き出す。高ぶった気持ちと波一つ無い水面を思わせる静かな鼓動。二つの相対する意志が一つに融合し一人の人間として存在する、そんな宇宙の真理に今辿り着こうとする瞬間。永遠とも思えるバス停までの時間を無限に刻み、己の魂と会話し悟りに近付く時間でもある。
そしてドアが閉まり、バス停の看板はゆっくりと去りゆき・・・




   『 ぴんぽ〜ん♪ 』


って速攻で押したん誰やぁー!!




半泣きの顔を袖で隠しつつ降車。バスの運ちゃんに気付かれたかもしれんけど、そんなことに構う気持ちの余裕は無かった。果たしてわしは勝ったのか。ボタンを押してへんからには勝ったはず。でも、でも、このやりきれない悔しさと情けなさとやるせなさをどうすればいいのやら。次回の雨降りの日までこんな精神状態でいろというのか。あぁぁ。


そのバス停の降車人数、5名也。
君ら顔覚えたからな!